BARRY SZAMBOTI
バリー・ザンボッティです。
記念すべきマイフェイバリットキューの100本目は、スタッフ野田が所有するとっておきのザンボッティをご紹介しましょう。
入手したのはもう20年以上前になるので少し塗装の黄変が見られますが、それもオリジナルの証ですので、リフィニッシュすることなく保管しています。
タッドなど古い時代に製作されたキューの多くはこういった塗装の変化が起こりますが、オリジナルフィニッシュをいじりたくないという思いから、真っ黄色になったキューをそのまま保存しているコレクターの方も少なからずいらっしゃいます。
「アバタもエクボ」という諺がありますが、黄色くなった塗装もそういった観点で見れば魅力の1つになり得るのです。
フォアアームです。
これぞザンボッティという8剣スタイルです。
大変人気があるため、多くのキューメーカーがこれを手本とした8剣デザインのキューを作っています。
剣先にはダイヤインレイ、ハギの中にはスピアヘッドのインレイが入っています。
そしてドットインレイがリングワークのように配置されています。
長剣の中に入っているダイヤとスピアヘッドを組み合わせたインレイは「ピーコック」と呼ばれており、ザンボッティの特徴的デザインの1つとなっています。
このインレイ、驚くことにダイヤとスピアヘッドがつながったワンピースの部品で構成されています。
ザンボッティが使用するインレイ材の一部です。
バリーの工房にあったものを撮影したものです。
上から2番目がピーコックで、ダイヤ部分とスピアヘッド部分の境目が反対側が透けて見えるのではないかと思われるほど薄くなっています。
当然ながら作業中に折れてしまうことがよくあるそうです。
最初から2個の部品でインレイすればいいのではないかとも思うのですが、それは職人としての拘りとプライドが許さないのでしょう。
バットスリーブです。
写真右側にはウインドウの中に十字型のインレイが入っています。「プロペラ」と呼ばれるインレイで、これもザンボッティの特徴的デザインの1つです。
使用されたプロペラインレイが上述のインレイ材の写真に写っています。
左側にはスクリムショウで「プロペラ」が表現されており、この2種類が交互に2つずつ入っています。
上下にS字型のリングワークが入っているように見えますが、これはリングではなく1個ずつインレイで入れられています。そのインレイ材が上述の写真の一番上に写っているものです。
この「S字リング」もザンボッティによく使われる代表的なデザインです。
インレイとスクリムショウで交互にプロペラを入れて欲しいという私の要望に応えて、バリーはこのようなデザインを作ってくれました。
バットキャップは白い面積が大きいので黄変の具合がよく分かる部分です。
バリー・ザンボッティのイニシャルB.S.が入っています。
近年ではイニシャルではなく「SZAMBOTI」と苗字をフルに入れているものが多いようです。
こういったイニシャルやネームは、それだけのための専用の刻印用機械を使って入れられています。
バリーの父、ガス・ザンボッティのキューでイニシャルやネームが入っているものはごく少数で、バリーも本当はキューにイニシャルや名前を入れるのは好きではないと言っていました。しかし注文主がそれを求める(私も求めました)ことがほとんどなので、致し方なくそうしているのでしょう。
バリーの気持ちもわからなくはないのですが、贋作を防ぐ意味でもこういったイニシャルやロゴマークを入れることは特にザンボッティのような高価なキューでは重要な意味を持ちます。
ジョイントです。
当然ながら伝統的な14山のパイロテッドジョイントです。
マッチングデザインのジョイントキャップが付いていますが、実はザンボッティは伝統的にバット側のキャップしか作ってくれません。
このキューを入手する際にバリーにシャフト側のキャップの必要性を説明して何とか作って欲しいと粘ったのですが、結局聞き入れてもらえませんでした。
仕方がないので、ビル・マクダニエル(故人)にシャフト側のキャップを作ってもらいました。
他のメーカーのキュー用のキャップを作るなど快く思えない依頼だったはずですが、当時スタッフ野田はマクダニエルキューも好きで10本以上は買っていたので、お得意さんの注文なら仕方がないと受けてくれたのでしょう。マクダニエルに依頼したのはジョイントが14山だった(マクダニエルキューの多くは14山です)からですが、もし断られたらさらに色々なキューメーカーに打診するつもりでした。
バット側のオリジナルと比べてもまったく遜色ない素晴らしい出来栄えで、マクダニエルの技術の高さと丁寧な仕事ぶりが伺えます。お値段もかなりのものでしたが・・・
バリー・ザンボッティ直筆の保証書です。
キューの仕様が詳しく書かれています。
写真では見づらいのですが、最下部の手書きサインの下に型押しスタンプが押されていてコピーを防止しています。
1997年3月に製作された299番目のキューと書かれています。
バリーがキュー製作を開始したのが1989年ですから、この時点で年間30本ほどしか製作されていないことになります。
2000年ころにバリーは大病を患いしばらくキュー製作を休止し、回復はしたもののバックオーダーが山のようにたまり、しかも製作に時間がかかる複雑なデザインのものが多く、年間製作本数はますます減る一方という状態が続いています。
ガス・ザンボッティは生涯に1,200本ほどのキューを製作したと言われていますが、バリーはそれよりはるかに少ない数になってしまうでしょう。
加えて近年は環境問題から来る規制がキューメーカーたちを苦しめており、情熱と技術があっても経済的に立ち行かずにキューメーカーの道を諦めるケースが見受けられます。
バリーの名刺には「伝統は続く」の文字があるのですが、ザンボッティも彼の代で終わりをつげ、伝説として語り継がれる存在になってしまうかもしれません。
古い名刺なので「問い合わせは電話かFAXで」となっていますが、現在は彼とe-mailで連絡を取り合っています。
伝説化するような貴重な1本を保管するケースはこれがぴったり!
その名も「レジェンド・ケース」
コレクションを収めたり飾ったりするのに最適です。