スタッフ野田です。
今回ご紹介するのは、一見まともなプレーのようなのですが、実はとんでもないイカサマ(もちろんファウル)であるというショットです。
トーナメントプレーヤーによる競技試合でそんなショットが行なわれることはまずありませんが、プライベートのゲームでは絶対ないとは言えません。
日本で「ハスラー」と言うとビリヤードプレーヤー全般を指す言葉として使われることが多いですが、本来の意味はイカサマ師といったあまり良くない意味であり、勝つために手段を選ばない狡猾な人々の事を指します。
そういった人たちはバレないと思えば非合法なショットであろうとも平気で使ってくるでしょう。ちゃんとルールに従って正々堂々とプレーしている人たちは決して「ハスラー」ではないのです。
さて、今回はそんな意図的に行われるイカサマショットを幾つかご紹介します。
まずはこれです。
ナインボールで最後の9番と手球がこんな配置になりました。
さあ、どうしたらよいでしょうか?
とても9番がポケットできるようには思えませんね。しかし・・・
この動画を見て、「これって簡単に9番がポケットできるんだ!」と思った人はいませんか?
そんな人はハスラーの絶好のカモです。
もうひとつ例を挙げましょう。
ナインボールゲームで絶好の1・9コンビが穴前にあるのに3番が手球に密着しており、このコンビが狙えないという状況です。この配置では空クッションで狙うことも難しいです。ところが・・・
これは初心者の方でも手球の動きが不自然に感じると思います。いったいどうしてこんなことができるのでしょうか?
実はこの2つのショットはどちらも「プッシュショット(PUSH SHOT)」と呼ばれるもので、WPA(世界ビリヤード連盟)のルールで「プッシュショットはタップと手球の接触時間を通常のショットよりも長くするショット」という定義でファウルになるプレーの1つとして規定されています。
つまり、通常のショットはタップと手球の接触は一瞬のインパクトでなければならないということです。
最初のショットをスローモーション動画でご覧ください。
ご覧の通り、タップと手球は5cm近く接触したまま前進しており、これによりタップで手球を通して間接的に9番をクッションに押し付けたまま動かしているわけです。
3番を避けて1・9コンビをしている動画もスローモーションを用意しました。
分かりやすいように、3番側からのアングルになっています。
通常スピードでは見切れませんが、手球を少し前に出して3番に干渉しないようにしてから左側をひねって右側に押し出しているのが分かります。
これを不自然に見えないように行なっているわけで、かなり悪質なプレーだと言えます。もし試合でこれをしたら、「スポーツマンシップに反する行為」として即失格となっても文句は言えないでしょう。
さて、もう1つ全く別の方法で行われるイカサマショットをご紹介しましょう。
この配置は、かの有名な映画「ハスラー」で使われたもので、ポール・ニューマン演じるファスト・エディがジャッキー・グリーソン演じるミネソタ・ファッツに最初に挑んだゲーム中に出てきます。
3個の的球が絡むコンビで先頭の的球をサイドポケットに入れようとしているところです。
映画「ハスラー」は14-1ですが、ナインボールを想定して、1・2・9の3連コンビで9番をポケットしようというものにしてみました。
この配置ではたして9番はポケットできるのでしょうか?
9番がポケットされていますね。ぼんやり見ていると、2・9番がポケットに向かって真っすぐ向いていたので、そういうこともあるかなと思ってしまうかもしれません。そう思ったあなたはやはりハスラーの餌食です。
確かに2・9番はポケットに向かって並んでいますが、この2個の間には球1個分近い距離があり、ある程度正確に2番が9番の正面に向かわないと成功しません。
どうやって2番を9番の正面に当てたのでしょう?
分かりやすくするために1番と9番だけで同様のショットをやってみました。
9番は見事にポケットしていますが、さすがにこの配置で9番が入るはずはないと思われた方がほとんどだと思います。
それではタネあかしです。スロー動画をご覧ください。
ご覧のとおり、何とキューで直接9番を撞いているのです。
さすがにこの配置では怪しまれてしまうので、まるでコンビが可能なように見える配置が前出の物なのです。
このショットを成功させる(見破られないようにする)コツは、できるだけ早くキューを撞き出して何が起こっているかを判別できないようにすることです。
これはプッシュショットよりさらにタチが悪いイカサマですね。明らかに確信犯であり、分かりにくいようにしているところに大きな悪意を感じます。
こんなショットを平然とするファスト・エディはビリヤード・プレーヤーとして許せない奴(だから「ハスラー」なのか?)ですが、このショットを見て「Very good shot!」と言って称賛する対戦相手のミネソタ・ファッツもどうかしているんじゃないかと思います。
この映画は伝説のプレーヤーであるウイリー・モスコーニがアドバイザーとして参加(映画に出演もしています)しているので、このショットもモスコーニの仕業だと思われますが、多くの人がこのイカサマショットにだまされたことでしょう。まだこの映画を見ていない方は是非一度ご覧ください。
初心者の人たちの中にはセーフプレーだと思って実際にはファウルになるショットをしている人がいます。手球の下部ギリギリを撞いて意図的に手球をミスジャンプさせている人を見かけることがありますが、これはミスキューの一種で、意図的にミスキューをすることは「スポーツマンシップに反する行為」としてWPAルールに記載されています。また、ラシャが傷むので、絶対にしてはいけません!
書籍などの媒体を利用して正しい知識を身に付け、ビリヤードを楽しみましょう。