こんにちは、スタッフ野田です。
ビリヤードが上手くなる過程では、いろいろな疑問や障害にぶつかります。
教えてくれる人が身近にいればいいのですが、多くの人は独学と自分の経験の中でこれを解決していくしかありません。
このブログの内容が少しでもお役に立てば幸いです。
さて、今回のお題は「バンクショット」です。
この話題はちょっと長くなりますので、2回に分けてお送りします。
バクショットは的球を直接ポケットへ狙えない場合に、的球をクッションで跳ね返してポケットするショットで、見た目はカッコイイのですが、上級者はあまり使いません。
私も初心者の頃は、上級者がバンクよりカットショットを選ぶのを見て、なぜだろうと思っていた時がありました。
下の例を見てください。
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あなたはこの的球をバンクしますか? それともカットですか?
実はこれくらいの位置が、多くの上級者が判断に迷うバンクとカットの分かれ目です。
JPBAの長矢プロやミカ・イモネンなど何人かのエキスパートに聞いたところ、これとほぼ同じぐらいの認識を持っていました。
要するに、これより厚ければカット、薄ければバンクするというわけで、手球・的球間あるいは、的球・ポケット間の距離が近くなればより薄い角度でもバンクよりカットを選ぶ人が多いです。
中・上級者にとってバンクショットはできるだけ避けるというのが常識です。
(手球のポジションのためにあえて使う場合もありますが)
その理由は、バンクショットにはカットショットでは考慮不要の不確定要素がいくつも含まれているからです。
光が鏡に反射するのとは違い、クッションからの反射角は必ずしも一定ではありません。バンクショットを成功させるためには、力加減、クッションまでの距離、クッションゴムの硬さ、的球の回転具合など、カットショットでは考えなくてよい要素がたくさん出てくるのです。
では、これらの要素を1つずつ検証してみましょう。
まず、クッションゴムの硬さですが、当然ながら硬いほど反射角は小さくなる(「短くなる」あるいは「立つ」と表現します)ので、トーナメントプレーヤーの多くは事前に試合で使う台のクッションを調べたりします。
注意しなければならないのは、ビリヤード台には全部で6本のクッション(短クッション側2本と長クッション側4本)があり、全部同じとは限らないということです。
クッションは経年変化や使用に伴いヘタってくる消耗品であり、特設会場などで新品のテーブルを使うならともかく、一般のビリヤード場では6本全部を同時に交換することは殆どなく、ヘタってきたクッションのみを個別に交換しています。
さらに言えば、同じクッションでも部位によって反射の具合が異なることがあります。
事前にそれらをすべて調べておくことは現実的には不可能なのです。
次に力加減の問題です。
下図は的球がクッションに入った瞬間を表しています。
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的球はAの方向からクッションに入り、これから跳ね返ろうとするところですが、その角度は的球が前に進もうとする力Xとクッションからの反発力Yの合成により決まります。
XYともにクッションへの進入速度に従って大きくなりますが、Xはクッションへの入射角が大きくなる(クッションと平行に近くなる)にしたがって大きくなり、Yは逆に小さくなっていきます。
入射角が「ある程度」のところまでは、クッションへの進入速度が早いほど反射角は小さくなり、「ある程度」以上になると逆に進入速度が早いほど反射角度が大きくなります。これは速度に伴うXの増加が、Yの増加を上回るからです。
しかし、この「ある程度」という入射角は相当大きく(おおむね80度以上)、そのような角度のバンクショットをすることは稀なので、基本的にバンクの反射角は強く撞くほど小さくなると考えて問題ないと思います。
さて、次にひねり(横回転)の影響について考えてみます。
手球をクッションに入れるとき、ひねりにより反射角度が変わることはご存知だと思います。同様にバンクショットの際に的球に横回転がかかっていると反射角が変化します。
カットショットではクッションからの影響を考える必要は殆どありませんが、的球がクッションに反射するバンクショットでは、これを考慮せざるをえません。
では、どのように的球に横回転が加わるかですが、これは主に手球のひねりが影響します。たとえば手球に左ひねりが加わっていると、的球に右ひねりの回転となって移ります。これは歯車をイメージしてもらえば分かりやすいと思います。
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要するに摩擦により回転が反対方向に伝わるということです。手球の回転に比べればその量はわずかなため、的球からクッションまでの距離があると横回転が消えてしまう場合がありますが、クッションに近い場合は無視できません。
もう1つ、的球にヒネリが加わる要素として「もらいヒネリ」があります。
これは手球が的球に斜めに当たると摩擦で手球にサイドスピンが加わるというものです。
逆バンクや腹切りバンクが難しいのは主にこれを考慮しなければならないためです。
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この図の場合、もらいヒネリにより、逆バンクでは右ヒネリ、腹切りバンクの場合は左ヒネリが的球にかかります。
従って、通常のバンクよりどちらも少し薄めに狙う必要があります。
もし手球のポジションのためにヒネリを使うなら、その分も厚みを調整する必要があります。
いずれもどれくらい薄くするか、あるいは逆方向のヒネリをどれくらいかけるかを明確に見出す事は難しく、経験により判断するしかありません。
最後に取り上げる要素は、的球からクッションまでの距離です。
まったく同じ角度・スピードでも、クッションまでの距離が違うと反射角度は同じになりません。
下図の配置を試してみてください。
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テーブル上に図のようにキュー(あるいは硬くてまっすぐなもの)を置き、それに沿って的球を並べます。
すべての球は必ずキューに密着させて、1~6番が同一直線上に並んでいるか確認してください。
並べ終わったらキューをどけて、まず手球をAから4番の正面に当てて6番をバンクさせ、左下の長クッションのどこに到達したかを見ます。(チョークを置いて分かるようにしておきましょう)
次に3番が6番と同じくらいのスピードでクッションに入るような力加減で手球をBから1番の正面に当て、3番がバンクして到達した位置と比べます。
すると3番と6番は同じ角度とスピードでクッションに入ったはずですが、3番の方がより長く、つまりこの図では、より左側に向かったと思います。
なぜこうなるかといえば、6番はほとんど無回転でクッションに入るのに対し、3番はクッションに向かって進む間に、前進回転がかかってしまうためです。クッションから反射した後に、この前進回転が効いて反射後の的球のコースが
変わってしまうわけです。
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これらの要素を考慮してバンクショットをしなくてはならないわけですが、実際には多くの上級者は感覚でバンクを行なっています。この配置ならこれくらいの加減で大体自分の望むところに行く・・・といった感じです。
そして、ポジションなどのために必要ならわざと厚みを変えて、その分ひねりや力加減を調整したりもします。
ビリヤードに限らず、訓練された人間の感覚というものは時に最新の科学技術をもってしても困難なことを平然とやってのけてしまうものです。一方で、その鋭敏な感覚は非常にもろく、ちょっとした精神的な影響で大きく狂ってしまうものでもあります。このあたりがビリヤードが面白く、奥深く、また恐ろしい面でもあります。
今回はここまで。
次回は実際にどのようにバンクショットを行なうかについてのシステムなどをご紹介します。
ゴールデンウイークに入りましたが、外出を自粛される方も多いと思います。
自宅でゆっくり参考文献でビリヤードを研究するのはいかがでしょう。