スタッフ野田です。
セーフティについて その3です。
前回まで専守防衛としてのセーフティを解説してきましたが、ショットとセーフティ(攻撃と防御)を組み合わせることができる場合があります。
たとえばこんなショットです。
①を遠いコーナーにカットするのですが、もし外れた場合でも手球が②の近く、つまり右の短クッション近くにあれば、難しい配置が残るであろうことはお分かりいただけると思います。
これは「アンドセーフ」とか「抜けセー」と呼ばれるもので、大抵は成功率の低いショットにチャレンジする際に用いられます。
アンドセーフ=ショット&セーフティ
抜けセー=抜けたらセーフティ(抜けるとはポケットに失敗することです)
外れた場合には、相手に難しい配置が残るような加減で次の球が狙える場所に手球をポジションします。
ポケットに成功すればよし、失敗してもセーフティが効いてどちらに転んでもおいしいという方法です。
しかし世の中にそんなうまい話がそうそうあるはずもなく、このようなことができる配置は限られています。
スタッフ野田の記憶に強く残っているこの手のショットは2つあり、1つはかなり昔に渋谷の某有名ビリヤード場で行われたJPBAプロのI氏と強豪アマだったM氏の決勝戦です。
ゲームはローテーションで、着々と得点を積み重ねたIプロが、最後のゲームボールを沈めたショットです。
そのゲームボールは直接入れるポケットがどこにもなく、コンビやキャノンは到底成功しそうもないような配置でした。
ここでIプロは、ゲームボールをダブルバンク、つまり長クッションの間で的球をバタバタさせてコーナーポケットに沈め、観衆の度肝を抜きました。
試合後にIプロにそのショットについて聞いたところ、たとえ外れても的球が見えない配置になるのが分かっていたので、思い切っていけたとのことでした。
もう1つは、AccueStatsビデオで見たエフレン・レイズvs高橋邦彦プロの9ボールゲームで、レイズの4連続マスワリ&エース(!)で5-0になり、第6セットでやっと高橋プロに順番が回ってきた時のショットです。
記憶があやふやですが、こんな配置です。
あなたならこの配置でどういったプレーをするでしょうか。
遠い①③コンビにいくという人が多いのではないかと思います。
しかしコンビが成功したとしても、次に①から反対側の短クッションにある
②に出せるかどうか?
ここで高橋プロが行なったショットはこのようなものでした。
高橋プロは見事に①を入れて残り球を取り切りました。
もし①が入らなかった場合は、①は隠れるか遠くて難しいところに残ることが期待できます。
解説者のグレイディ・マシューズ(他界した有名なプロプレーヤーです)が「Oh, Nice Shot!」と
叫んでいました。
なお、これだけは心に留めておいていただきたいのですが、セーフティといえども攻める気持ちで行うことです。
セーフティは守りのプレイと言われます。確かにどんなに難しい配置であれ、相手に撞く機会を与えるという意味ではそうかもしれません。
しかしそれは的球が入れられないから仕方なくするだけではなく、将来の構想を組み立てて未来につなげるものでなくてはいけません。
相手にファールさせる確率を上げるには、どうしたらいいか?
セーフティと同時に、的球の配置を自分に有利にする方法はないか?
たとえばこの配置を見てください。
①を入れるポケットがないのでセーフティするのですが、手球を①の正面に当てて⑧と⑨の裏へ隠すことは誰でも思いつくでしょう。
しかしその後にチャンスボールが回ってきた時いかにして取りきるかに考えが及べば、面倒なところにある⑦に①を当てて動かしておくという発想が生まれます。
少しだけ①の左側を狙い、手球が⑥と⑨の後ろに留まるように弱めに撞きます。
⑦はクッションから少し離れるだけでOKです。
①の向かう方向は必ずしもこの図の通りにはならないと思いますが、手球が⑧⑨の裏に止まりさえすればセーフティは成功するはずです。
もちろん相手が①を何とかしてしまう可能性もあり、そうなると相手の取り切りを助ける結果になってしまうのですが、セーフティによって自分がランアウトに向かう可能性が高いと思うなら、こうするべきです。
セーフティは的球をポケットすることができない、あるいはその可能性が非常に低いという場合に行なわれることが多いのですが、一応取り切りは可能だけれど、セーフティの方が勝つ可能性が高いという判断により行われる場合もあります。
そのような考えで行われた実例を1つご紹介しましょう。
ゲームは9ボールで、スタッフ野田が観戦していたあるオープン戦での出来事でした。
PBCJ(現JPBA西日本)の片岡久直プロとフィリピンのプロ(ルネ・クルーズだったかな?)との試合で、片岡プロに図のような配置が回ってきました。
テーブル上の的球は⑧と⑨だけで、⑧は遠いコーナーに入れることができるのですが、手球はクッション際にあり、微妙な右フリがついていました。そのまま⑧を入れた場合、手球は⑨に当たって残り球の配置予測が難しくなる・・・そんな配置でした。
スタッフ野田は、入れポンして出たとこ勝負するのかなと思って見ていました。
ですが、片岡プロのショットは下図のようなものでした。
手球を⑧の正面わずか右側に当てて、手球を⑨の陰に隠すセーフティです。
相手プレーヤーは2クッションでセーフ・トライにいきましたが失敗し、このセットをギブアップしました。
たまたま結果オーライになっただけだという意見もあるかもしれません。相手がセーフを取るのに成功して難しい配置が残ったり、空クッションで⑧を入れられて負けてしまう可能性もあります。しかしその可能性と⑧を入れにいって取りきれないで負けるという可能性を比較して危険の少ない方を選ぶというのは、理にかなっていると言えるでしょう。
実際、手球がクッション際にあるこの⑧のショットはたやすいものではなく、⑧が入っても⑨は遠いコーナーへの薄いショットになる可能性が高いため片岡プロはセーフティを選択したのかもしれません。
取りきりかセーフティか? どちらの方が勝つ可能性が高いかは当事者の心理状態も影響してくるので単純に配置だけでは判断できません。
さてこれまではセーフを取りながら行なうセーフティプレーをご紹介してきましたが、セーフを取ること自体が難しい場合に最終手段として的球のトラブルを作り出して相手のミスを待つというセーフティがあります。
この配置では手球が⑧の陰に隠れて①に当てることが非常に困難になっています。
そこでセーフを取ることを諦めて、相手のランアウトを防ぐために故意のファールで②を③にくっつけるというものです。
このショットでは②の動きのみに全神経を集中します。
手球がコーナーポケットに落ちるかもしれませんが、どのみちファールになるので、それを心配する必要はありません。
あえて相手にフリーボールを与えるという、まさに肉を切らせて骨を断つという戦法です。
しかしトラブルを作ってもそれを解消されてしまったり、フリーボールから厳しいセーフティを仕掛けられて3連続ファールを狙われる可能性もあります。
それでも、ただ座して死を待つよりはマシという方法なのですが、そんなことしかできないという場合もあるのです。
最後に、これは精神論なのですが、ゲームには「勢い」・「流れ」というものがあります。
いわゆる「外す気がしない」状態になって、無類の強さが発揮できたという経験を持つ人も多いと思います。良い流れに乗っているからセーフティで相手にターンを渡したくないという理由で、難しい球に敢えてチャレンジしているのだろうと思われる場面がプロの試合でも見かけられます。あるいは難球を一発決めて、流れに乗りたいという気持ちもあるかと思います。
セーフティしても良い流れを失わずに済むためには、自分で納得できる工夫を凝らしたセーフティをする必要があります。ナイス・セーフティもナイス・ショットであると考えれば気持ちが途切れることはないと思います。
師走に入り2023年もあとわずかとなってきましたね。
年末年始に備えていろいろ買い物をされる方も多いと思います。
今年頑張った貴方や親しい方へのクリスマスのプレゼントなどにちょっと小粋なアクセサリーなどはいかがでしょうか。