SCHULER CUE
シュラー・キューです。
日本では製作者のフルネーム「レイ・シュラー」で呼ばれることが多いです。
イリノイ州のシカゴ郊外に工房を持ち、1970年代からキュー製作を続けている老舗メーカーです。
残念ながら創設者のレイ・シュラー氏は2002年に他界してしまいましたが、彼の遺志を受け継いだ工房スタッフがキューを作り続けています。
シュラーはポケット用はもちろん、スリークッション用のキューを多く作る事で知られており、実はこのキューもスリークッション用なのです。
かのロバート・バーン(こちらも故人です)が、自分が好きなキューとしてこのシュラー・キューを教本ビデオの中で紹介しています。
ハギの部分です。
インレイによる浮きハギが4本入ったデザインです。
黒檀で縁取りされたココボロのものが2本と、黒檀のものが2本交互に入っています。
多くのキューはフォアアーム・グリップ(ハンドル)・バットスリーブの3つを別々に作って、それらを接合するという構造になっており、これは加工する材料が短くて済む(大きな材料を加工するためには大きな旋盤が必要)、材料の無駄が減らせる(不良部分があったらその部分だけを作り直せばよい)などのメリットがあるためですが、このキューのバットは1本のバーズアイメイプルを加工して作られています。
本来ならやりたくない方法のはずですが、それをあえてするところがレイ・シュラーのこだわりなのでしょう。このキューはサン・リーのシグネチャーモデルなので、もしかしたらサン・リーの要望でこうなっているのかもしれません。
バット全体が1本の材料で作られているためグリップ(ハンドル)もバットスリーブもなく、キュー尻にはバットキャップがあるだけです。
「by Ray Schuler」のサインがあります。
シュラー・キューにはロゴマークはなく、1本1本にこの手書きサインが入れられています。
レイ・シュラー氏が亡くなった後は、「Ray Schuler SLC」と書き込まれています。
SLCは「Schuler Legacy Cue」を意味しています。
前述の通りこのキューはスリークッションの名プレーヤーとして知られる故サン・リー(Sang Lee)のシグネチャー・モデルです。製作年度は1998年頃です。
サン・リーは韓国人だったのですが韓国でキャロムの主だったタイトルを総ナメして33歳でアメリカに移住し、アメリカ国籍を取得します。そしてニューヨークの「Carom Cafe」を拠点として活躍し、USBAトーナメントを12年連続制覇するなどアメリカでもキャロムの王者として君臨していましたが、2004年に51歳の若さで病死してしまいました。キャロムプレーヤーの方ならご存知の方も多いでしょう。
「Carom Cafe」です。一昨年にスタッフ野田が訪問した際に撮影した店内の様子です。
メインアリーナにVERHOEVEN製のテーブルが10台設置されており、その他にも何台ものスリークッションテーブルがあります。さらにポケット用のテーブルも20台近くあります。
店内に展示されていたサン・リーの写真です。
彼が獲得したトロフィーや盾などがたくさん展示されていました。
神様ことレイモン・クールマンも一時期シュラー・キューを使っていました。
その他にもシュラー・キュー独自の特徴がありますので、それらをご紹介していきましょう。
まずジョイントです。
一件、普通の14山パイロテッドジョイントのように見えますが、ジョイントピンが接合面から少ししか突出していないことがわかります。
こんなに短くて大丈夫なのかと思ってしまうかもしれませんが、シャフト側の雌ネジを切ったダボが長くてストレートになっていることにご注目ください。つまりジョイントピンがこのダボをバット側内部に深く引っ張り込む形で接合する仕掛けになっていて、ネジの接合部分は十分な長さが確保されているのです。
ジョイントピンが中空になっていますが、これはジョイント付近をなるべく軽くするための工夫です。普通は真鍮で作られているシャフト側のメスネジがアルミ製であることもこのためです。
シュラー独自のウェイト調整システムです。
キュー尻にウェイトボルトと呼ばれるネジが入っていて、その長さや材質を変えることで重さを調整するのが主流なのですが、シュラー・キューではワッシャーのようなオモリが取り付けてあり、これの枚数や材質を変更する仕組みです。似たような形状の物なら市販のワッシャーなどを使って微調整も簡単にできます。
そしてシャフトです。
これはシュラー・キューのカタログですが、6種類のシャフトがラインナップされています。
これは別のシュラー・キューのカタログに掲載されているシャフトについての解説ですが、8種類あります。
ポケット用のストレート部分が長いものから、強目のテーパーがついたキャロム用のものまであり、キューを購入する際にシャフトが選べるようになっています。レイモン・クールマンのテーパーというシャフトもありますね。
いろいろなシャフトを使ってみたいという要望に応えるために、シュラー・キューのシャフトはすべて互換性があり、1975年から現在までこれは続いています。
このように数々の特徴を持っているシュラー・キューですが、デザインが地味なためかあまり日本では見かけません。
もっと評価されてよいキューだとスタッフ野田は思っているのですが、ハイテクシャフト全盛の日本ではノーマルシャフトしか持たないキューをたくさん流通させるのは難しいのかもしれません。
キューショップジャパンにはハイテクシャフトもたくさんあります。