今回はちょっと変わり種のアダムキューです。
写真上の1本はポケット用、下の1本はスヌーカー用のキューで、2本同時のご紹介となります。この2本は用途は違いますが似たような構造をしています。
ポケット用は「スーパーパワー」という商品名が付いたキューで、現在はもう絶版になっていますが、ビリヤード歴の長い方なら見覚えがあるかもしれません。
全体写真を一見してジョイントの位置が異様であることに気づいた方も多いと思います。通常のポケット用のキューは全長が58インチ(約147cm)で、バットとシャフトの長さが各29インチ、つまりジョイントが全体のちょうど中央に位置しています。
しかし今回ご紹介するキューは・・・
ご覧の通り、バット部分がシャフト部分よりかなり短くなっています。
実測値は以下のとおりです。
ポケット用:シャフト 103cm、 バット 44cm
スヌーカー用:シャフト 105cm、 バット 41cm
このようにシャフトの長さがバットの2倍以上あり、全体の4分の3近くがシャフトであることから「スリークオーター」と呼ばれています。正式名称のスーパーパワーよりもこちらの名称の方が有名かもしれません。
ポケット用のシャフトです。
スーパーパワーは構造上フォアアームが存在しないので、シャフトの根元にハギが入っていました。(ハギなしモデルもありました)ハギの形には何種類かありましたが、いずれも生産数が非常に少ないものでした。
このポケット用のシャフトは青・黒の2枚のベニヤで縁取りされた黒檀の4本ハギデザインとなっています。
スヌーカー用のシャフトです。
こちらはアッシュのシャフトに黒檀のバタフライポイント(竹の子ハギ)が4本入っています。
通常の物より10インチ以上も長いので、アダム社はスーパーパワーのシャフトを作るために専用の旋盤を1台用意する必要がありました。新製品開発にかける意気込みと熱意が感じられますね。
スヌーカー用シャフトにはこんなロゴマークがついています。
これについての説明は後ほど。
ポケット用のスーパーパワーのバットです。
グリップはアイリッシュ・リネン巻き、バットスリーブは黒檀で、樹脂のオーバルとダイヤのインレイで構成されたデザインが施されています。
バット側のジョイントカラーに「Super Power」のモデル名が入っています。
これ以外にはアダム製品であることを示すネームもアダムライオンのロゴマークも付けられていません。バットキャップが黒だったためにこのモデル名しか入れられなかったのかもしれません。アダムブランドなのにアダムロゴが一切ないというのは大変珍しいと思います。
スヌーカー用のバットです。
こちらは鮮やかな赤と緑の縁取りが付いたバタフライポイントのノーラップ仕様となっています。
スヌーカーキュー特有のキュー尻が斜めに削り落とされている形状となっています。これは昔の名残でこうなっているもので、機能的な意味はありません。
この平面部分にモデル名などを示す銘板が埋め込まれることが多く、このキューもブランド名を示すメダルが埋め込まれています。
キュー尻のメダルのクローズアップです。
バッファロー(Buffalo)というブランドのキューであることが分かります。
シャフトのロゴマークも同じで、アダム社を示すものは何もありません。
これは製造はアダム社ですが販売会社が異なる、つまりOEM商品ということなのです。
これはかなり古いアダム社のカタログの1ページです。
ヨーロッパ市場向けとしてBuffaloブランドでアダムのキューを販売しているという説明があります。
リチャード・ヘルムステッター氏の名前で説明されていることや、キューにスリークッションのレジェンド小林伸明氏のネームが入っていることなど、なかなか興味深いです。
アダム社はこのバッファローの他に、ヘルムステッター、フリオ・スタンボリーニ、ダイヤモンド、スタンリー・ウエストなど海外向けのOEM商品をたくさん作っており、その一部は日本国内でも流通しているものがあります。
ジョイントです。
アダム社が通常のキューには使用しないクイックリリースタイプのジョイントが付いています。さらにポケット用とスヌーカー用では微妙に形状が異なっています。普通の10山や14山などのジョイントでも問題ないのではないかと思いますが、もしかしたらシャフトをジャンプキューとして使用する(シャフト単独で40インチ以上あるのでジャンプに使用できます)ことを考えて着脱が早くできるジョイントにしたのかもしれません。
さて、このようなキューを持ち運ぶためには当然ながら専用のキューケースが必要となります。このキューが発売された際に、専用のキューケースも同時に発売されました。
ご覧のような2バット2シャフトが入るアルミ合金製のキューケースがあり、1バット1シャフト用も発売されていたと思います。このキューを買おうとするならこのケースも同時に入手する必要があり、そこそこ高くつくために購入を見合わせた人も多かったと思います。
ところで、このブログをご覧の皆さんは普通のハギ(三角ハギ)と竹の子ハギの作り方の違いをご存知でしょうか。
今回ご紹介したキューのシャフトを比べると、それが分かります。
2種類のシャフトを並べたところです。
断面の部分にご注目ください。
どちらのハギも旋盤で材料を削りだして作るのですが、上のポケット用は直線で構成され、スヌーカー用はなだらかな曲線となっています。
これはハギ材の入れ方を変えることで、このような違いが出てきます。言葉で説明するのは難しいので、下図をご覧ください。
簡略化しているので実際とは少し違うのですが、原理はこのようなものです。さらに縁取りベニヤを付けたり、一度ハギを入れた部材を使って別のハギを追加したりします。
ポケット用のスリークオーター・キューは持ち運びの不便さから絶滅危惧種となっていますが、スヌーカーの世界ではジョイントの無いワンピースキューがもともとポピュラーだったため、ワンピースの手ごたえを損なわずに持ち運びの利便性を向上させたキューとして生産が続けられています。
キューショップジャパンには、ムサシをはじめとしたアダム製のキューをたくさん取り揃えております。品質の確かなアダム製キューは安心してお使いいただけます。スタッフ野田も最初に手に入れたキューはアダム社のもので、購入した夜は嬉しくてハードケースに入れたキューを抱いて寝ていました。(マジです)