ビリヤードテーブルでお馴染みのブランズウイック社製のキューです。
何の変哲もない安物のキューに見えると思います。
それもそのはず、このキューはビリヤード場などで貸し出されるハウスキューなのです。このマイフェイバリットキューでハウスキューをご紹介するのは初めてですね。
勿論ブランズウイック社はハウスキューだけを作っていたのではなく、一般ユーザー向けのキューもたくさん製造していました。1890年代には年間40万本ものキューを製造していたようです。
ジョージ・バラブシュカなど多くの古参カスタム・キューメーカーがブランズウイック社製の「タイトリスト・キュー」を改造して販売していたことは有名です。いずれそういったキューもご紹介したいと思っています。
バット上部です。グリップ巻きは無いので、フォアアーム・バットスリーブといった区別はありません。
メイプルにパープルハートらしき銘木で4本のハギが入ったフルスプライス構造のキューのように見えますね。しかし・・・
ハギの合わせ目(?)部分のクローズアップです。
接合部分には段差や隙間がなく、素晴らしい工作技術ですと言いたいところですが、紫色がところどころ薄くなったり剥げたりしているのが分かります。
勘の良い方にはもうおわかりでしょう。そうです、これはハギではなく塗装なのです。
つまりこのキューのバットはメイプルのストレートで、それにハギが入っているかのような塗装が施されているのです。
単価を安くしなければならないハウスキューなればこその製法です。
キュー尻部分です。
金文字でBrunswickのメーカー名が入っています。勿論これも塗装です。
大型の尻ゴムが付いています。尻ゴムは摩耗しやすく、またキュー尻全体を覆う方が破損を防げるというコンセプトでこのような尻ゴムが付けられたのだと思います。
古いキューなので尻ゴムが固着しており外すことができませんが、取付ネジは見えないので嵌めこんであるだけのプッシュオンタイプの物だと思われます。
ジョイントです。
現在主流となっているものとは逆に、シャフト側にジョイントピンが付いています。バット側のジョイントカラーにメスネジが切ってあります。
ピンもカラーも真鍮製で、経年変化で茶色にくすんでいます。昔のキューはこの部分に真鍮がよく使われていました。古いアダムキューにも真鍮のジョイントピンは散見されます。
これは1980年代に製作されたアダムキューです。真鍮のジョイントピンが使用されています。
スタッフ野田はあるキューメーカーになぜ真鍮をハウスキューのジョイントに使うのかを訪ねたことがあるのですが、真鍮は軟らかいので工作がしやすく、特にハウスキューのように大量に作るような場合は切削工具の摩耗や負担が少ないので真鍮が好まれたのではないかとのことでした。
今回ご紹介したキューは、とある個人宅に設置されていたブランズウイックの初代ゴールドクラウン・テーブルに付属していたもので、所有者の方は日本国内のボウリング場に設置されていたものを閉店時に譲り受けたのだそうです。初代ゴールドクラウンの製造期間が1961年~1974年なので、このキューの製造時期も同じくらいではないかと思われます。
このハウスキューの他にも付属品がいくつかありますので、ご紹介しましょう。
まずはボールです。ブランズウイックの純正ボールとしてよく知られているセンチニアル・ボールです。経年変化で色がくすんでしまっていますが、まだ充分実用に耐える状態です。金色のボールトレイもブランズウイック純正品です。トレイの中央にロゴマークが入っています。
キューを立てかけておくキューラックです。
ビリヤード場ではお馴染みの備品ですが、これもブランズウイック純正品で、ちゃんとブランズウイックの銘板が付いています。
木製のトライアングル・ラックです。
ブランズウイックのネームとロゴマーク、そしてこのトライアングルでラックできるボールの直径が2.25インチ(標準の9フィートテーブル用ポケットボール直径)であることが表記されています。
経年で亀裂が入っている部分がありますが、実際にボールをラックしてみると歪みもぐらつきもなく、しっかりラックができます。
今回ご紹介したキューは金額的な価値はほとんどないものですが、半世紀前のビリヤードの歴史を物語るものとして歴史的価値があるのではないでしょうか。
キューショップ・ジャパンにはビリヤードの歴史に残るようなクラシックなキューもあります。