BERT SCHRAGER
バート・シュレーガーです。
ジョージ・バラブシュカやガス・ザンボッティと並んで他の多くのキューメーカーたちに影響を与えた歴史に残る名匠と言ってよいでしょう。
残念ながら2011年2月24日に86歳で亡くなり、シュレーガー・キューの製作は途絶えてしまいましたが、彼のもとで学んだ弟子たちや影響を受けた多くの職人の中で彼の魂は生き続けています。
スタッフ野田が初めてキューメーカーの工房を訪れたのが、このシュレーガーのところでした。
当時シュレーガーの工房はカリフォルニアのノース・ハリウッドにあり、ジナキューの工房と近かったこともあって、シュレーガーの工房を見た後にジナキューの工房にも連れていってもらい、伝統的なキュー製作と最新機器を駆使した現代的キュー製作の2種類を続けて目の当たりにすることになりました。今思えばこれが私がキューコレクションを始める直接のきっかけになった気がします。
当時まだ現役プレーヤーだったスタッフ野田はキューに機能のみを求め続けていたのですが、その製作現場を見てキューに込められた職人の創意工夫や熱意、ポリシー、芸術的感性などに抗しがたい魅力を感じたのです。
訪問当時すでにバートは70歳を超えていましたが、突然私に跡を継がないかと聞いてきて驚いたのを鮮明に覚えています。キュー製作を教えてきた多くの弟子たちはすべて独立して自分自身のブランドを立ち上げてしまい、誰もシュレーガーの後を継ぐ者はいなかったのです。ちょっと心が動きましたが、身の程を知るスタッフ野田はやんわりとお断りしました。
帰国後にこの話を友人のS氏にしたところ、彼はシュレーガーにキュー製作を学びに行き、その後日本で機材をそろえて自分のブランドのキュー製作を始めました。人生、何が起こるかわからないものです。
フォアアームです。
黒檀にメイプルのダイヤインレイで構成されたデザインです。
グリップ上部に半円形のインレイがリングワーク風に入れられています。
このキューはインレイで構成されていますが、ハギ(ショートスプライス)のシュレーガーキューもたくさんあります。
バットスリーブです。
黒檀にダイヤと変形長方形のインレイで構成されたデザインです。
バットキャップは黒樹脂です。
1986年以降のシュレーガーキューには多くの場合バットスリーブに「By Schrager」の文字が入っているのですが、このキューはそれより古い年代に作られたもので、どこにも文字の類はありません。
現存するシュレーガーキューはネームが入っているものがほとんどで、このようにネームのないキューは非常に少ないといえます。
ジョイントです。
ジョイント・カラーが「イエロー・ミカルタ」と呼ばれる素材で作られています。
通の方ならこれを見ただけでこのキューが相当に古い年代に作られたことがお分かりになるでしょう。
この素材はアメリカのウェスティングハウス社が開発した樹脂で、もともとは高圧電気回路に使用する絶縁性に優れた素材を求めたものなのですが、その丈夫さからキューにも使われるようになりました。
シュレーガーの他にサウスウエストなどいくつかの古参キューメーカーが先角などに使用していたのですが、削り粉に発がん性物質が含まれているということで使われなくなったようです。
ジョイントピンはシュレーガー独特の長い10山のフラットフェイスです。ジョイントピンが長いので他のメーカーの10山のシャフトを入れようとすると最後まで入りきらないということがままあります。
ジョイントカラーの下のリングとシャフトのリングがマッチングデザインになっていることがわかります。
緑色が入ったちょっと珍しいリングワークです。
作られて半世紀近くは経つと思われるキューですが、現在でも実用に耐えるほどしっかり作られています。
これも名職人の証です。
名職人が手作りしたケースはいかがでしょうか。